葛飾北斎といえば、浮世絵木版画が有名ですね。
一点ものの肉筆画と違って版画は同じものがいくつもあるので、
たくさん摺られた大人気の「富嶽三十六景」などは
多くの美術館や博物館が所蔵しています。
しかし浮世絵版画は、江戸庶民が安価に楽しめる大衆誌、
現代でいえばアイドルのブロマイドや旅行雑誌の様なものだったのでしょう。
大量生産する為の商品だったので、同じ版木で摺ったものでも、
彫った原版から摺りたてのものと何度も版を重ねたものでは
発色や輪郭の鮮明度は違ってきてしまいます。
時代が下るほど後刷りといわれて、美術的な評価が下がっていきます。
絵師が亡くなり指示が無いため仕上がりが今一つだったり、
版木が摩耗したり改造されたりして摺り上りが
当時のものとは違ってしまうことがあるからです。
とは言えやはり、江戸時代の紙に、色彩に、
摺りの良品を見られる機会があればそこは逃さず、
美術館に足を運びたいものです。
浮世絵は絵画の中でも特に日光や湿度に弱く管理が難しいため、
なかなか本物の常設というのはありません。
展示の際には色を守るために照度を抑えたうえで、
数週間からひと月くらいで展示替えを行うところが多いです。
少し前、話題になった東京都美術館の「若冲展」が
大行列になってしまったのは、その短い会期のせいです。
逆に言えば、コレクションの多い東京国立博物館や、
太田記念美術館などの浮世絵専門の美術館などに時々訪れていれば、
展示替えで多くの浮世絵が見られるということにもなります。
北斎や広重といった特定のお気に入り絵師やシリーズものを
一度に並べて見たいとなると、各地で開催される企画展をチェックするか、
一人の絵師に特化している美術館を見つけるしかないでしょう。
北斎でいえば、昨年オープンした「すみだ北斎美術館」。
「富嶽三十六景」などのシリーズものが一堂にいつでも見られる、夢のような美術館ですね。
レプリカではありますが高品質の実物大のものが常設で展示されます。
1800点ものコレクションを持ちまだまだこれから増やしていくとのこと。
もちろん定期的に北斎関連の企画展が行われるので、足繁く通いたい美術館ですよね。
長野県には「信州小布施北斎館」があります。
ここは特に北斎の肉筆画が充実している美術館です。
映像ホールがあって、大画面で北斎についての様々な知識が楽しく学べます。
また常設で祭屋台の実物が2台、展示してあってその天井には
北斎自筆の「龍」「鳳凰」や「浪」の絵が描かれていて大変見事です。
余談ですが、チケットを買うときはお得な3館共通券を買って、
「おぶせミュージアム 中島千波館」と「高井鴻山記念館」も合わせて訪ねることをお薦めします。
現代日本画の人気絵師、中島先生の桜は必見。鴻山の記念館では、
北斎に提供されたはなれのアトリエ「碧漪軒(へきいけん)」を見ることができます。
*「高井鴻山記念館」は平成29年3月まで改修工事のため休館