あんなに暑かった夏も終わり、
朝晩はちょっと肌寒い今日この頃。
みなさま、お元気ですか?
さあ、アート大好きカエル女史のナビで
歌麿さんの美人画ワールドへいきましょ〜!
右隅の四角い枠の中にも、
うたた寝をする美人の吹き出しにも、
何やら大勢の人物が描かれています。
現代の漫画のような表現で、とても面白い構図ですね。
「今様邯鄲」というお題の所以を知らなくても、
どうやらこの女の人は夢を見ているのだな、と想像できます。
「邯鄲(かんたん)」は、唐の時代の故事に
登場する中国の都市の名です。
ある若者が邯鄲の宿でまどろんでいると、
豪華絢爛な輿が迎えに来て、
請われるままに王宮へと誘われ、波乱万丈な人生を送ります。
えらく出世して帝王にまで上り詰め、
幸せな晩年を過ごしている絶頂期に、ふと目を覚ますと元の宿屋。
まだ晩御飯の粟飯も炊き上がっていませんでした、
という夢オチの元祖みたいな話です。
その話の「今様」、つまり現代版がこの作品。
右の枠にいるのが、盧生という主人公の若者で、
お迎えの行列を夢に見ているところ。
それを歌麿さんはこの時代に置き換えて、
吉原の遊女がお大名への輿入れを夢見ている場面に描きました。
能の演目にもあるし、メジャーなお話だったのでしょう。
江戸の皆さん、絵だけでこのユーモアが分かっちゃうのですね。
しかもモデルの女性も、
名前は書いてなくても誰だか分かっちゃう仕掛けです。
着物の裾にご注目。
花と扇の模様です。
新吉原の扇屋お抱えの花魁、
「高名美人六家撰」にも選ばれた、その名も花扇さんです。
長々と文字を書かなくても、
当時の人々は絵だけでいろいろな事を
読み解いていたことが分かりますね。
さてこちらの花扇さんは歌麿さんお気に入りのモデルの一人で、
美しいだけではなく、大変な才女だったそうです。
螺鈿の文机に積まれた本が、それを物語っています。
また、衣装道楽でも有名だったとか。
源氏名をあしらった着物は特注でしょうか。
超高級そうな、べっ甲の櫛に豊かな黒髪が透けています。
手に持った団扇も珍しいもののようで、
骨が無くてスケルトン。
何で出来ているのかしら。
枠の中の盧生さんが持っている唐団扇(とううちわ)に合わせて、
絹を張ったものでしょうか。
とにかく小物まで凝っていて、
さすがファッションリーダーという感じです。
「邯鄲の夢」はこの世の儚さを語ったお話し。
きれいに着飾って、高名美人ともてはやされても、
夢に見るのは玉の輿。
苦界吉原にあっては、それこそ夢のまた夢。
ちょっと切ない、今様の邯鄲です。
次回も
『アート大好きカエル女史がナビする
カナブン流、歌麿美人画の旅』お楽しみにね!