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丸にいの字、ひらがなの家紋とは珍しい!

家紋研究家、渡辺くん節でまいります!
ごゆるりとお過ごしくださいませ。


東洲斎写楽 〈三世澤村宗十郎の大岸蔵人〉

三代目澤村宗十郎は江戸時代中期、
田沼時代と松平定信による寛政の改革が
行われた時期に活躍した歌舞伎役者です。

初代宗十郎は吉宗治世の享保年間に「澤村宗十郎」を名乗り、
江戸や京都で役者としてその地位を確立し、
養子に二代目を譲り、
その二代目の子が本作に描かれた三代目宗十郎です。


澤村宗十郎は『丸にいの字』という家紋を使用しています。
丸輪の中に輪に沿うような形に丸みを帯びた
平仮名の「い」が描かれたこの家紋は、
文字紋の中でも数少ない「平仮名を象った家紋」です。

文字紋はその名のとおり、文字をデザインした家紋です。
そのほとんどは漢字を象り、
使用する家の苗字に関係する文字を使うことがほとんどです。

大庭家であれば「大文字」、
児玉家であれば「児文字」などという具合です。

漢字を使用する利点は、
漢字それぞれの意味もさることながら、やはりわかりやすさでしょう。
一目見ればどこの家かがすぐにわかり、
戦場での識別も容易なことから、武家での使用も盛んでした。
その一方で、公家ではどこの家にも使用が見られません。

また、文字の配置やデザインの工夫によって、
桜や菱などの形を表現するものもあり、
文字という決まり決まったデザインに遊び心を加えることで、
見る人を楽しませてくれるものも数多くあります。

そんな文字紋の中で平仮名を象った家紋はあまり見られません。
澤村宗十郎家が代々用いる『丸にいの字』が、その貴重な例です。
この家紋を用いる由来はわかっていませんが、
初代宗十郎は紀伊国出身で、澤村家の屋号も紀伊国屋といい、
初代に縁の深い「きい」の「い」を意識したものかもしれません。

では、『片仮名』を象った文字紋もあったのでしょうか。
こちらも数は少ないですが、「イ」を象ったものがあります。
「イ」を四つ配置して組み合わせた『イ菱』という紋がありますが、
こちらも実は歌舞伎役者が使用している紋で、
明治と大正時代に活躍した初代中村鴈治郎が使い、
今も四代目がその紋を受け継ぎ、舞台を踏んでいます。