髪の毛の一本一本まで、
しかも生え際まで彫りで表現する
技法を『毛割(けわり)』といいます。
この技法は、彫師にとって
もっとも難しい卓越した技術を要するため、
親方格の彫師が担当をする作業と言われ、
こうした立場の彫師を“頭彫(かしらぼり)”と呼びます。
絵師の大まかに書かれた版下絵のアイデアとデザインセンスを、
彫師が高い美意識と高度な技術を持って彫り上げていきます。
版下絵が大まかというのは、
毛割は彫師にとってパターン化された
技術であったため、絵師が下絵に細かく正確に
描く必要性がなかったというわけです。
だからこそ、ここで
一本一本の毛を美しい線で表現する
彫師にとっての本領発揮、
腕の見せ所、底力を示すところなのですね!
さて毛割には、
最も標準的な表現のすっと長く髪を彫る「通し毛」、
そして
生え際を櫛で梳いたように見せる「八重毛(やえげ)」の
表現方法があります。
「八重毛(やえげ)」のように、
額の生え際や襟足などのほつれ毛の先まで美しく、
より複雑な髪の動きを表現するものは、
特に歌麿の美人大首絵の最盛期に発達しました。
また、美人画では
髪の生え際や襟足などに
1本のほつれ毛をあえて描くことがあります。
これによって髪はもちろん、
女性の表情までもが、より自然に見えるというわけですね。
超絶技巧と言わしめる
この繊細な髪の表現は、
人物の生き生きとした描写の美しさを際立たせ
私たちを惹きつけてやみません。