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物騒なタイトル「浮気者」に込められた歌麿さんの親心

みなさま、お待たせいたしました!
歌麿さんの美人、またまた登場ですよ。

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喜多川歌麿「教訓親の目鑑」(きょうくんおやのめがね)シリーズから、
今回の残念な子は「浮気者」です。

なんだかチャラチャラしていて、
あまりおしとやかには見えません。
でも愛嬌がある娘さんですね。

歌麿さんがこのシリーズで描きたかったのは、
まさにこういう市井の若い娘の奔放な姿
だったのではないかと思うのです。

寛政の改革以後、
何かと風当たりの強い美人画職人歌麿さんにとって、
なんとかお咎め無しで美人の大首絵が描けないものかと
頭をひねった結果がこのシリーズです。
これは美人画ではありません、
最近の娘さんたちの目に余る行動を
いさめているのです、というわけ。

歌麿の数あるシリーズの中でも、
個性的で少し滑稽な美人がたくさん出てきて
面白いものだと思います。

「浮気者」ですが、
今で言う浮気、不倫という意味ではありません。
地に足のつかない浮ついた者、
ミーハーで軽薄な子、といったところでしょうか。

例によって端っこに御託が並べてありますよ。
歌舞伎や豊後長唄なんかに夢中になって
ウットリしてるんじゃありません、現実を見なさい。
そんなお芝居に出てくる夢みたいな人生に憧れても、
一生かなわないのだから。
親御さんたちも、こういう娘には特に気をつけなさいよ、ってね。

豊後長唄(ぶんごながうた)というのは
主に心中物を語ったもので、浄瑠璃やお座敷などでも演奏され、
歌舞伎と同様に当時の大流行の娯楽でした。
寛政の三美人のうちの一人、
「富本の豊雛」の富本節(とみもとぶし)は
豊後長唄の流れをくんでいます。

有名なのは「曽根崎心中」や
「心中天の網島」などの近松門左衛門です。
実際に起こった事件を取材し、
美しい文章で心中を美化して聴衆の涙を誘いました。
その熱狂もあってか、実際に心中事件が続発して、
心中物は幕府の取り締まりの対象になったほど。

当時の結婚は、経済的なレベルや
格式の釣り合う家同士の取り決めで行われるのが普通でした。
結婚とは、その家に入って家業を継ぐこと、
跡取りを生むこと、という極めて現実的な側面が強かったのです。
結婚と恋愛は別のものだったのですね。
親に逆らって好きな相手と駆け落ちしたって、うまくいきっこない。
そういうのを浮気な結婚、
現実からはぐれた浮ついた結婚、として戒めました。

だから男は、吉原などでお金を払って
恋愛ごっこを楽しんだのです。
しかし一方で、そこで本気になったり、
なられたりで刃傷沙汰やら心中やらが
巻き起こることも多々あったのでしょう。
今も昔も大衆は、そういったゴシップが
大好物なのは同じなのですね。
今なら週刊誌やテレビのワイドショーを賑わすものを、
この時代の作家さんはすぐに脚本にして舞台にかけましたよ。
「曽根崎心中」事件などは一か月後には、上演したそうです。

歌舞伎役者にお熱をあげたり、
心中物のヒロインに憧れてみたり、
夢見る夢子ちゃんではお嫁に行った時の
厳しい現実についていけないよ、
という歌麿さんの親心を感じます。

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次回も
『アート大好きカエル女史がナビする
カナブン流、歌麿美人画の旅』お楽しみにね!