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始動前、男たちの朝のひと時を描いた北斎さん

みなさま、お待たせいたしました!

アート大好き青野カエル節、
『富嶽三十六景』シリーズの第3回目でございます!

今回も読み応えありますよ。

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富嶽三十六景中(46図あります)
茨城県からの唯一のエントリーが「常州牛堀」。
茨城県潮来市の牛堀は、霞ヶ浦の海よりの入り口付近にあります。


葛飾北斎 富嶽三十六景「常州牛堀」

茨城からも富士山は見えるのです。
霞ヶ浦辺りは富士山と筑波山の両方が望める水郷の景勝地。

東北の諸藩から年貢米や特産物を積んだ船が
常陸那珂湊や銚子湊から霞ヶ浦へと入ってきます。
北関東から陸路でも年貢米や薪炭、材木などの物資が霞ヶ浦に集まります。
江戸へ向け、霞ヶ浦から横利根川を通って利根川に出る時の
風待ちの船溜まり、水運の要衝がここ「常州牛堀」でした。

画面を大胆に斜めに二分する船は、
利根川で独自の進化を遂げた大型の高瀬船(たかせぶね)です。
最大で長さ30メートル、
帆柱の高さ14メートル、
米が千俵以上も積める大きさで
6人程の船頭さんが交代制で操る船もあったそうです。
銚子から江戸までは水量や風向きなどによっては、
往復半月ほどかかることも珍しくなかったとか。
そのため、高瀬船には「セイジ」という
休憩や炊事、寝泊まりのための船室が付いていました。

この絵の船はそこまで大きくはなさそう。
まだ早朝、帆柱を倒した状態で出港準備前。
腹が減ってはお船は漕げぬ、お米を研いで朝食の準備が先です。

セイジにはよく見ると3人の人が乗っているみたいですね。
船梁に腰を曲げて座る男は、
中の船頭さんと頭をくっつけて何やら内緒話をしていますよ。

『おめえ、境河岸のお松ちゃんとはどうなってんだよ』
『何言ってんだぁ、オレは新河岸のお竹ちゃん一筋だっぺよ〜!』

米を研ぎながら、
『行徳寄るんなら、笹屋のうどん、食いてえ』
とまぜっかえすもう一人の男。

江戸への船運は大変な仕事とはいえ、
途中に寄る河岸(かし)などではお楽しみもあったでしょうね。

何だか騒がしくなってきたぞと
2羽のサギが飛び立ちます。

さぁこれから他の船も準備をはじめ、
牛堀の溜まりは活気づく時間です。
利根川遡上に丁度良い南風が吹くといいですね。

本作は、藍摺り10枚のうちの一枚です。
早朝の爽やかな霞ヶ浦に浮かぶ高瀬船と、
同じ湖上に浮かんでいるかのような富士山が面白い構図だと思います。
セイジの屋根とそれを覆う藁とで、
雪を被った富士山を模して、両者を丁度同じくらいの大きさに描いています。
船の傾きと大きさを計算したうえでの緻密な構成なのですね。

茨城から富士山は、そんなに大きく見えないんじゃないのって?
いいんです、わざとなんです。
写実だけでは面白い絵なんて描けやしませんもの。
と北斎さんも言ってます、たぶん。