今回も絵の中に飛び込んでしまったような
カエルの解説、炸裂していますよ。
変わり者と言われ続けている北斎さんが
なぜかだんだん身近に思えてくる金沢ぶん子なのです。。
さぁ、それでは皆さん、ご一緒に!!
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大井川の川越しです。
当時の様子がよくわかる絵ですね。
奥に見えている家並みは島田宿で、対岸の金谷宿の方から描いています。
それにしてもすごい波、うねっています。
水深もかなりあって、胸のあたり、脇の下まで水がきていますね。
水深が4尺5寸(1.36m)、肩のラインを超えるくらいあると
「川留め」といって、全面通行止めになりますので、ギリギリのところですね。
川留め寸前の滑り込みなのか、川開けしたばっかりなのか、
今のうちに渡ってしまおうといった勢いが感じられます。
ダイナミックな水流としぶきの描写が北斎さんならでは。
川越しの様子を描いた浮世絵は数あれど、ひときわ異彩を放っています。
広重の五十三次の「島田」「金谷」では、
大井川のだいぶ上の方から俯瞰して、人物は豆粒のように小さく、
川の広大さの表現に重きを置いています。
(歌川広重 東海道五十三次「島田」)
豆人間一人一人の動きがリアルで可愛いので、カエルはこちらの絵も好き。
広い河原と幾筋にも別れた流れや、
仮橋をかけて渡っていたことなど歴史資料としても興味深いです。
一方「金谷ノ不二」では視点がグッと川面に寄り、
人足たちの威勢の良い掛け声や
激しい川の流れの音まで聞こえてきそう。
季節はおそらく春、富士山は雪を被り、
対岸に見える花は満開の桜か。
旅人の服装をみても、
まだだいぶ着込んでいるようですから、水もさぞ冷たいでしょう。
肩車の客は皆、落ちたら一巻の終わりとばかりに人足の頭に取り付いています。
人足と客のペアを二組ずつ、同じ格好の物をコピーしたかのように
並べることで、絵にリズムが生まれています。
大名や家老が乗るような大きな駕籠や長持のような大荷物を運ぶのは、
大高欄台という一番大きな連台です。
担ぎ手は16人前後、手張りと呼ばれる補助役と共に
雪解けの冷たい水に気合いを入れて飛び込んで行きます。
川岸に見える竹垣のようなものは何でしょうか。
細長く編んだ竹籠に石を詰めたものを「蛇籠」(じゃかご)と言います。
たぶんそれを積み上げた、水除堤だと思うのですが、それにしては巨大です。
広重の「島田」にも描きこまれてはいるけど、そんなには大きくない。
あくまでもカエルの妄想ですが、
これはいつもの「突っ込んではいけないヤツ」ではないでしょうか。
蛇籠はそんなにでかくない、海じゃないんだから波うねりすぎ、
手前の岸が土手や河原にしては不自然。
いいんです。わざとなんです。
北斎さんはきっと、この絵で曲線の気持ちよさを楽しんでいるのです。
だって面白いでしょう。
手前の岸辺の山なりから波のうねりが幾重にも重なり、
蛇籠の筋がまた波のように曲線を描いている。
大勢の登場人物たちをその波のレーンに沿って配置し、
肩車でリズムを、連台で勢いを表現する。
そして、富士山と宿場の屋根の三角形は、右側の蛇籠の断面の三角によって、
波の曲線と違和感なく繋がっていく。
隅々まで見事に計算された構図は、見ていてとても楽しいです。
北斎さんはいつだって、美しさ、面白さ優先でちょっと大袈裟。
それでいいのだ、それがいいのだ。
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カエルの旅、次回もお楽しみに!