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論理と情緒、巧みな構図に仕事帰りの男たちを描いた北斎さん

こうも毎日暑いと夕方になる頃には、
程よい疲労感が体にまとわりつく金沢ぶん子です。
皆様、いかがお過ごしでいらっしゃいますか。

今回の『アート大好きカエル青野カエル的解釈の北斎・富嶽三十六景の旅』は
北斎さん得意の構図を骨組みに、まったりとした夕暮れの雰囲気が描かれ
見ているだけで1日の疲れが癒される、そんな1枚です。

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北斎 富嶽三十六景「御厩川岸より両国橋夕陽見(おんまやがしより りょうごくゆうひみ)

夕陽は沈み、残照が対岸の風景を影絵のように浮かびあがらせています。
彼方の富士も濃紺のシルエットで描かれ、
墨の天ぼかしは夕闇が迫るのを教えています。

「御厩の渡し」は墨田区横網と台東区蔵前を結んでいました。

手前側には本所御倉、向こう岸には浅草御倉と両岸ともに幕府の御米蔵がある倉庫街。
蔵前には米問屋や札差などの金融業のお店が多くあり、
蔵を管理する役人の官舎などもありました。
北の浅草、南には柳橋の歓楽街に挟まれたここは、
官庁街とか金融街のような場所といってもいいのかなと思います。

渡し船の客層を見ても、これから夜の街へ繰り出そうというのではなく、
お仕事帰りの方が多いようです。

舳先に座る棒手振りさんは何を売り歩いたのでしょう、
桶の中は空っぽのようです。

風呂敷をしょった手代さん風の人、商談はまとまったのかな。
按摩さんもいますね。
大小を差した武士は蔵奉行のお役人か。
長~いモチ竿を持つ、いかにも怪しげな餌差(えさし)の役人、
隠密活動の首尾は上々とばかりの不敵な笑み、
あるいは雀がたくさん捕れただけか。

ご隠居と連れの男のひそやかな話し声のほかは、
船頭の櫓をこぐ音だけが物憂く聞こえる夕暮れ時。
皆さん、今日もお仕事お疲れ様でした。

船の男の手拭いと岸辺の女の洗濯物、船頭さんの後頭部を三角形に結ぶと、
富士山の相似形が現れますねぇ。
一見ユーモア担当の二人の洗濯が、実は計算だったとカエルは妄想します。

船頭さんの役割はまだあります。
両国橋の弧と渡し船の縁の弧が、長さ、形状とも似ていますね。
それが船頭さんの持つ櫓の先端を中心として、点対称になっているのです。

大まかにですけど、確かに一致します。
面白いので、トレーシングペーパーとコンパスで、れっつとらい。
お手すきの時にでもやってみてください。
本物でやらないでね、コピーしたやつでね!

このように北斎さんのアイディア満載の「御厩川岸より両国橋夕陽見」は、
絵手本としても素晴らしい作品だと思います。

画面の空と川、つまり天と地の比は半分ずつですが、
船にとっての水面、近景の水面が三分の一、遠景が三分の二になっています。
お馴染みの「三ツワリの法」ですね。

しかも珍しいことに、この絵では縦方向の消失点がないので、
「空気遠近法」を試みているようです。

「三ツワリの法」の遠近法は「線遠近法」で、
遠くのものほど小さく描き奥行きを表現する方法です。

「空気遠近法」は風景画でよく使われる方法で、
遠くのものの輪郭をぼんやりと、青味がかった色で描きます。

橋や街並みの遠景部分を、無線摺りで輪郭を無くしぼんやりとした影のように摺り、
色も淡くすることで遠近感を出しているのです。

餌差の持つ長~いモチ竿が、唯一画面の遠近を縦方向に貫き、
この絵全体をまとめるキーアイテムになっているかと思います。

どうでもいいけど、この餌差、ちょーカッコいいと思うのは私だけでしょうか。

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金沢ぶん子も、ちょーカッコいいと思います。
皆様はいかがですか?

カエルの旅、次回もどうぞお楽しみに!