岩下書店 | 復刻版浮世絵木版画専門店
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シンプル?いやいや、かなりギミックを効かせた絵ですよこれは。

みなさま、お待たせいたしました!

今回も、アート大好きカエル女史の妄想にグイグイ引っ張られます!

さぁ
「青野カエル的解釈の北斎・富嶽三十六景の旅」へ、ご一緒に!

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現代が車社会なら、江戸時代は船社会。
多くの河川や掘割が市中に張り巡らされ、
人や荷物を運びました。

船の種類も様々で、
足の速い猪牙舟はちょいとそこまでのタクシーがわり、
隅田川は路線バスのような、
渡し船を利用して行き来していました。

荷物の運搬も、船が主役。
食料品も炭や薪などの日用品なども、何でも船で運びます。
大型の弁財船(べざいせん)が沖に着くと、
小型の集配トラックよろしく、
瀬取舟などに積みかえて市中の河岸に届けます。
一大消費地の江戸には連日のように五百石だ、
千石だの大型船が、浦賀水道を通って押し寄せました。

画面いっぱいに描かれた大きな船は、
江戸湾で荷を下ろし、お国に帰る千石船です。
穏やかな湾内を、風に帆を膨らませて進んでいます。
外洋に出るまでしばらくの間、優雅な船旅といったところか。

船乗員の方々も矢倉の窓から海景を眺め、
リラックスムードです。

それにしても、というか相変わらずの大胆な構図ですね。
船のディテールを描きたかったのでしょうか。
ぱっと見、あまりにシンプルな絵柄に
ちょっと拍子抜けする向きもあるかと思います。

しかし、カエルはこの絵を見ているうちに、
おや、これはもしかして「船絵馬(ふなえま)」ではないの?
と思い当たりました。

北斎は47才の時、
絵の仕事で木更津に招かれ、一ヶ月ほど滞在しています。
その時に長須賀の日枝神社に奉納した
「富士の巻狩図」を描いた絵馬が残っています。

木更津という湊町の神社には、
海上安全祈願のために自分の乗る船を描いた
「船絵馬」がたくさんあったことでしょう。
絵馬ですから構図は単純、海に浮かぶ船、
あとはお日様か神様がちょこっと
描かれている程度のものです。

それらを目にした北斎先生、いい事思いつきました。

沖合を通るカッコいい弁財船を「船絵馬」風に
シンプルに描いたらクールなんじゃなかろうか、と。

で結果、どうです、クールでしょう。
現代人から見ると、なんだか北斎にしては
シンプル過ぎて芸がないなぁ、
なんて思われるかもしれません。
でも「船絵馬」専門店まであった、
船社会の当時の人が見れば、すぐに気が付く。

今度の富嶽は船絵馬風だよ。
うん、面白い趣向だ、北斎も洒落たことするねぇ。

てなもんです。

そして、隠れ富士山のお楽しみもしっかり用意してあります。
帆柱のてっぺんから前後に張った綱が、
大きな三角形の山型になっています。

本来ならば、後ろの綱(身縄)はもっと手前に
張られていなければおかしいのですが、
富士山の相似形にするために、
ワザと船尾に持っていきましたね。

身縄から平行移動した位置に、
手前の帆につながる手縄を張り、少し小型の三角を作り、
その中の水平線上には本物の三角、富士山が鎮座している。
さらに、並走する船にも相似形の三角。
芸がないどころか、まあ面白いこと。

緩く弧を描く水平線と遠近感のある波の表現もみごとな、
なんとも美しい「船絵馬」。
それがこの「上総の海路」なのではないかと、
妄想してみたのでした。


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カエルの旅、次回もどうぞお楽しみにね!