目にも鮮やかな紅葉や美味しい食べ物が盛りだくさんの秋。
どこか旅に出かけたくなる季節の到来です。
江戸時代、こうした行楽のことを
物見遊山(ものみゆさん)と言っていたそうです。
見て字の如くという感じですよね。
浮世絵で旅と言えば、
歌川広重の「東海道五十三次」でしょう。
ガイドブックの役割も果たしていたといわれる「東海道五十三次」。
今回はその中から、
宿場の宿でのユーモラスな人間模様を描いた
作品をとりあげてみたいと思います。
それは…!
なんといっても…!
「御油 旅人留女(ごゆ たびびと とめおんな)」ではないでしょうか!?
(くわしい作品情報はこちらになります↓)
https://www.kanazawabunko.com/?pid=60513344
東海道五十三次の35番目の宿場「御油宿」は
現在の愛知県豊川市にある御油町。
街道の両側に旅籠が並ぶ、夕暮れ時のひとこまですが…
大変です、豪快な客引きが始まっていますよ!
なんとしてでも旅人を自分の旅籠へ
引っ張り込もうとする二人の留女。
手前の旅人は背負った風呂敷包みを引っ張られ
苦しげな表情。
「ちょっとあんた! うちにいらっしゃいよ!」
「…ううう 苦しいじゃねえか!」
「いいから! うちにおいでなさいよ!」
そんな声が聞こえてきそうです。
うしろの旅人はもう一人の留女に
がっちりと袖をつかまれているのでしょう。
かなり抵抗しているにもかかわらず
留女は力を緩める気はまったくなさそう!
これほどまでに強引で豪快な客引き、
あっぱれで笑いが出ちゃいますね。
十返舎一九の『東海道中膝栗毛』のなかで
弥次さんは留女のことを
顔に白粉(おしろい)を塗りたくり、
お面をかぶったようだと言っています。
そんな気合い十分でパワフルな留女たちと
対照的なのがこちらの二人。
力ずくの客引きを
「あ〜あ、またやっているわ」と言わんばかりに
涼やかな表情で通り過ぎようとしている女性。
もうひとりの女性は、
旅籠からほおづえをついて客引き合戦を眺めています。
客引き合戦は毎度のことだったのでしょうね。
そしてこちらは強引な留女に引き込まれたあとの
武士でしょう。
宿泊が決まると、お客が足を洗うための
たらい湯を女中さんが運んできてくれだのだそうです。
旅籠は、朝夕の食事を出し、食事は基本的に一汁二菜。
このほかにお酒とつまみが出たそうです。
留女と旅人の闘いをユーモラスに描き、
登場人物ひとりひとりの表情が際立っていて
じーっと眺めてしまいたくなる作品です。