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大胆? 緻密? 北斎の絵の構図は緊張感と遊び心がいっぱい

「富嶽三十六景」は全部で46図のシリーズもので、
当たり前ですが、そのすべてに富士山が描かれています。

つまり富士山をモチーフに46パターンの絵を描き、
そのいずれもが素晴らしい!という大傑作を生み出したのです。

版の減り具合から一つの図柄につき、
千枚単位で摺られたことが分かっていることから、
当時の人々は新しい版が出るのを楽しみに待ち、
発売されるやこぞって買い求めたのではないでしょうか。

北斎は毎回、人々を飽きさせない工夫を凝らした構図や
奇抜なアイデアを「富嶽三十六景」に盛り込んでいたのです。

「富嶽三十六景」のほとんどすべてに
遠近法が使われている
のは見ての通りですね。
近景は大きく、中景、遠景と行くに従い小さく描いている。

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「尾州富士見原(びしゅうふじみがはら)」など最たるもので、
手前の大きな桶の中に遠く小さく富士が描かれた、
遠近法を巧みに用いた大胆で斬新な構図です。

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強風で大変なことになっている「駿州江尻(すんしゅうえじり)」
曲がりくねった街道が画面奥へと小さくなっていく奥行き感が楽しいですね。

現在の絵画では一般的な描き方ですが、
当時の浮世絵版画にとっての風景の扱いは
背景やあしらい程度のものでしたので、
ちゃんとした西洋絵画の遠近法を取り入れた「富嶽三十六景」は
大変目新しく映った
のだと思います。

北斎は「北斎漫画」の中で
「三ツワリの法」という独自の構図法を紹介しています。
西洋絵画の基礎的な構図法に三分割法というのがあります。
これは簡易的に黄金分割の安定感を画面にもたらす便利な手法で、
今では油絵や写真を習う時に最初に教わることですが、
オランダから入ってきた絵を独自に分析し、
その法則を発見したのは、おそらく北斎が初めてなのではないでしょうか!?

画面の上下左右を三等分して
「二ツを天とすべし、一ツを地とすべし」
地平線の取り方を教え、
縦の等分線では透視図法の消失点を説明しています。

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「江戸日本橋」は消失点のある遠近法を用いた分かりやすい例です。
川を中心に両岸の蔵をだんだんと小さくして目線を誘い、
消失点の先には江戸城が配されて富士のお山と肩を並べるという構図、
考え抜かれた緻密な構成なのです。

また北斎は絵手本「略画早指南」の中で、
「規矩の二つをもって諸々の画なすの定位を教ふ」
つまりコンパスと定規で作図の原理を教えると言っています。
北斎のイメージは、感覚的な天才肌で何も見なくてもサラサラと
勝手に絵筆が走るようなタイプのような感じもしますが、
「万物の基本は丸と角」と幾何学的な視点を重要視していたのです。

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そのコンパスと定規を駆使して描いたのが、あの「神奈川沖浪裏」
研究者や美術家でなくとも、思わず線を引きたくなる絵!と言われています。
大小いくつも描ける円と、山と波の三角、静たる山と動の波、
緻密な計算の上での大胆な構図は時代を超え、海を越えて絶賛されています。

もうひとつ、北斎の遊び心を感じる“隠れ富士山探し”なる楽しい構図もご紹介しますね!!
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「東都浅草本願寺(とうとあさくさほんがんじ)」

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「江都駿河町三井見世略図(こうとするがちょうみついみせりゃくず)」などの
瓦屋根の三角と富士の三角をリズミカルに並べた美しい構図は
よく知られていますが、よ~くみると一見それとはわからないように
富士山のシルエットが隠されている絵があります。

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「神奈川沖浪裏」の手前の三角浪もそうです。

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「上総の海路(かずさのかいじ)」には
帆船のロープが相似形に2つ重なって富士山型に見えます。

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「甲州石班沢(こうしゅうかじかざわ)」では
漁師とそれが打つ網とで後ろに見える富士とシンクロし、
稜線の消える位置まで揃えているようです。

以上、勝手に隠れ富士山に認定した例ですが、まだまだありそうですね!!
皆さんも“勝手に隠れ富士山探し”、いかがですか!?