みまさま
お待たせいたしました!
独特の切り口でもって、
北斎さんの作品を観るカエル女史の登場です!
さささ、
アート大好きカエル女史がナビする
「青野カエル的*解釈の北斎・富嶽三十六景の旅」
はじまりはじまり〜〜!
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甲斐の国、山梨県南巨摩郡身延町の
身延山中に源流を持つのが、こちらの身延川です。
身延山には日蓮宗の総本山である久遠寺がありまして、
その山中を流れ下ると波木井川に合流して、
富士川へと注ぎます。
墨田区業平に今もある、日蓮宗の柳島法性寺の
妙見様を深く信仰していたという北斎さん。
30以上とも言われる画号のうち、
「北斎辰政(ほくさいときまさ)」の「北辰」の部分は、
北極星を意味していて、
北極星と北斗七星を神格化した妙見菩薩にちなんで
付けた名前なのだそうです。
「戴斗」や「卍」という画号も同じく、
妙見信仰からきています。
飯島虚心 著「葛飾北斎伝」には、
北斎さんの信仰に関する記述があります。
「蜜柑箱を少し高く釘づけになして、
中には日蓮の像を安置せり」
散らかし放題の部屋でも、お祖師様だけは
きちんとお祀りしていたのですね。
このように熱心な信者であった北斎さんにとっては、
特別な思い入れがあって然るべきなのが、
この一枚、「身延川裏不二(みのぶがわ うらふじ)」です。
他の甲州もの、例えば「甲州伊沢暁」や「甲州石班沢」
などは本来、天子山塊や御坂山地に隠れて、
富士山はチラリとしか見えないところを、
「秘儀心の目」で稜線まできれいに描いています。
何故ならば、これは「富嶽三十六景」シリーズだから。
富士山を美しく、それとわかるように
描かなければ、皆が納得しないから。
それなのに「身延川裏不二」では秘儀を使わず見えたまま、
本当にちょこっとだけ富士山の頭を描いています。
実際に富士川沿いから富士を見ようとすれば、
このチラリは正解なのですが、今までだったら
手前の山並みをもう少しモヤモヤっとして
富士山を目立たせていたはず。
それをせず、実景通りに描いたのは、
身延山に通ずる道がいかに険しいか、
いかに山奥の幽玄な地であるかと、
富士山よりも身延山をメインにしたかったから
ではないかと感じました。
さらに、この川ですが、なんとも不可思議な
描かれ方だと思われませんか?
波立つわけでもなく、まるで階段みたいです。
久遠寺には三門と山の上の本堂を結ぶ、
「菩提梯」(ぼだいてい)という石の階段があります。
天を突くような一直線の急な階段で、
287段もあって登り切れば涅槃に達すると言われる、
ありがたくも恐ろしい難所です。
「身延川裏不二」を時計回りに90度回転させると、
私には川の段々が丁度その「菩提梯」の急階段に見えるのです。
ちゃんと本物と同じく、
踊り場もあるところなんか、かなり怪しい。
そうすると、旅人や中馬が歩いている道が
階段の側道の男坂にあたる、
という仕掛けなのではないかと。
金山、雪見岳のふたこぶの山と、青黒い五宗山の間に挟まれて、
それらより低く目立たぬように描かれた富士山は、
「富嶽三十六景」の46図の中でも少し異質な印象を受けます。
そこには北斎さんの信仰心が関わった、
この絵に対する特別な思い入れがあったのではないかと
想像してしまったのでした。
どうでしょう。
今回も少し、カエルの妄想が過ぎましたでしょうか。
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カエルの旅、次回もお楽しみにね!