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アート大好きカエル女史がナビする
「青野カエル的*解釈の北斎・富嶽三十六景の旅」へご一緒に!
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富嶽三十六景シリーズの中に
人の気配や背景がなく富士山だけを描いた
よく似た構図の二枚があります。
「凱風快晴」と「山下白雨」。
「赤富士」と「黒富士」とも呼ばれています。
どちらも山頂に雪がほとんどなく、
赤茶色の山肌を見せているので
夏の富士山を描いたものです。
また、この二枚の署名を見ると、
両方とも「北斎改為一筆」と読めることから
時を置かずに描かれたことが分かります。
ほとんど同じ構図、描かれた季節も同じ、
描いた時期も同じこの二枚。
北斎は何を意図していたのでしょうか。
それを探るために
次はこの2枚の相違点を見つけてみますよ。
一番の違いは、お天気ですね。
「凱風快晴」は快晴という割に、
ちょっといわし雲が多めですけれど、明るい空です。
対して「山下白雨」の方は、
頂上付近は雲一つなく、
中腹にはかっこよく図案化された雷雲、
そして、山下にはこれまた、かっこいい稲妻がビカビカっと。
ふもとの村はきっと突然の雨におおわらわでしょう。
「凱風快晴」では堂々としておおらかな優しい富士山を描き、
「山下白雨」では一転、厳しく荒々しい富士山を描いています。
両者の違いを北斎先生は、様々な工夫をもって描き分けています。
先ずは、お山のとんがり具合。
美しくなだらかな勾配を持つ「赤富士」に、
実際よりも大分急峻な「黒富士」。
山頂の様子も「赤富士」が平坦なのに対して、
「黒富士」の方は剣ヶ峰を中心とした三峰に描かれ、
鋭角的な勾配と相まって、一層の険しさを表現しています。
稜線も同じく、「赤富士」は滑らかで「黒富士」はガタガタです。
そして、山肌の描き方です。
山頂から中腹にかけての朱色のグラデーションと
すそ野の緑のぼかしまで
「赤富士」の山肌は滑らかなスベスベお肌。
「黒富士」はというと、赤い摺りの上から、
裾野から迫る暗雲の墨が重なって、
赤黒い不気味な様相を呈しています。
お天気同様、お肌もガサガサと荒れています。
このように北斎さんは
様々な方法で富士山の二つの顔を描き分けて見せたのです。
「富嶽三十六景」は講元である西村与八のもと、
富士山信仰に依って企画されたシリーズです。
「富嶽百景」の扉絵に浅間神社の祭神である
「木花開耶姫命(このはななのさくやひめのみこと)」があることからも、
富士山を信仰の対象として、
つまりは神様として描いていたとわかります。
大きく美しく皆が憧れる富士山はまた、
時に活火山としての恐ろしい顔を見せ、
時にその厳しい自然は
山頂を目指す者たちのゆく手を阻みます。
慈愛に満ちた勇壮な神として描いた「凱風快晴」と、
厳しく恐ろしい荒ぶる神として描いた「山下白雨」。
富士山を信仰する人々にとって、
どちらもありがたいお姿なのです。
それを見事に描き分けて、
解かりやすく構図を揃えて提示しているのが、
この2作品なのではないかなと、カエルは思いました。